友達の定義

「最近、岸君に植物の話を聞かせてもらっていたら、家庭菜園や園芸が趣味になっちゃった」
 傍らには植物の本があった。雪月が読んでいるのは、野草図鑑だ。食べられる草の種類が書いてある持ち歩ける大きさの本だった。

「岸はいい奴だよな」
「時羽君よりもずっと気が利くし、ずっと優しいし。本当に良い人だよ。時羽君が言うように岸君に対して真面目に関わろうと思っているよ」
「真面目に関わるって……」
「付き合うことも視野に入れて……と思ったけれど、すぐ死ぬ予定だから、それって残酷だよね」
「でも、好きなら付き合うのもありじゃないのか。とは言っても、俺は恋愛したことないし、その感覚が全くわからないけれど」
「そうだよね。時羽君の考えている映像はいつも友達がほしいばっかりだもんね」 
「あまり人の脳内を見るな!!」
 時羽は赤面する。

「こんなネガティブ思考の気が利かない男子のどこがよかったのか自分でもわからないけれど……安心して。もう好きじゃないから」
 その一言が時羽の心に突き刺さる。グサリという音がするくらい容赦ない突きだ。 

「あれ、時羽君意外とへこんだ? 映像が急に真っ黒になっちゃったよ。何もない部屋でひとり取り残されたみたいな」

「そんなこと……あるわけないだろ」

「本当は時羽君の孤独に強いところに憧れていたんだ。仲が良かった人とぎくしゃくしていて、女友達に合わせていくことに疲れていたんだよね。SNSのグループに入らなければいけないとか、入れてもらえなければ友達じゃないとか、色々焦って八方美人状態。でも、いつも本気で笑えていなかった。そんな時に、いつも一人ぼっちでいても平気な顔をしている時羽君の強い心が羨ましかった。心の映像を盗み見ると、実は結構友達欲しい人で、自己否定が強く裏表がないってことがわかって。一緒にいたいと思って声をかけたの」

「一人ぼっち仲間を探していたってこと?」
 時羽は少し冷たい声を出す。

「あと、3年弱しか生きられないならば、一緒にいて本音で笑える人と一緒にいたいって思ったの。裏表がなくて、正直な人と一緒にいたい。岸君も愛想はいいし、万人受けする裏表はないキャラだしね。彼に向き合ってみようと思うの」

 時羽は何も言えなかった。とっさに出てきた言葉は実に彼らしいものだった。 

「友達の定義って何だろうな? たとえば、たまに話すだけの人、クラスが同じ人、友達と言っても深さは全然違うよな」

「恋人と友達の定義も私もわからないけれど、自分が友達だと思ったらそれが友達だと思うし、片思いの人でも、卒業して二度と会わない人でも友達だと思えばそれが友達なんだよ」

「そうか」

 図書室の本の整理をしながら時羽は、友達について考えていた。あんなに憧れていた友達というものは自分の解釈次第だということは、幻想の中に見た真実だった。喉から手が出るほど友達に憧れていた時羽は、実は解釈次第で友達だったのかもしれない人がいたということに気づく。自分が心を閉ざしていたせいで作ることができないでいた。でも多分、時羽が求めていた友達はもっと深く関わり成長しあえる同士だ。うわべの友達じゃない。そして、友達になれた岸と雪月がもしかしたら恋愛関係になるかもしれないという状況に戸惑いが隠せないだけだった。

「友達関係に疲れていたけれど、時羽君と岸君に救われたよ。一人ぼっちは耐えられなかったし、心が見える分、裏表が見えるから色々考えるようになっちゃって。だから、これからも土曜の夜は集まろう」

 関係が途絶えないということに時羽としては、少しうれしい気持ちもあった。しかし、岸と雪月が恋人になってしまったら自分の居場所がなくなってしまうのではないかという心配もあったのは事実だ。