ほんの、出来心だった。あとでどうなるかなんて、考えてもいなかった。少しくらいなら……。
 覚悟も気持ちも決まっていないのに、雰囲気に流されて、受け入れた私が悪い。

「ふたりとも、何してんの?」

 私の唇に触れた中尾くんの唇が離れたあとに聞こえてきた、汐里の声にドキリとする。

 背中を伝う冷や汗。傷付いた汐里の顔。狼狽えて震える頬に触れたままの中尾くんの指先。
 その瞬間の張り詰めた空気は、たぶん一生忘れられない。

「汐里、これは、あの……」
「最低……」

 中尾くんは、駆け出していった汐里の背中を見つめるだけで追いかけようとはしなかった。

「中尾くん、汐里のこと……」
「ごめん。最低だけど、俺、吉崎さんのことが好きになっちゃった」

 額に手をのせた中尾くんが、切なげにつぶやく。

「でも、私……」
「うん、ごめん。吉崎さんが流されただけだってわかってる。全部、俺が悪いから」

 中尾くんが泣きそうな声でそう言って、私を優しく押し退ける。