「ムカつく。笑ってるなら、手伝え」
中尾くんに不服そうな声で訴えられて、仕方なく立ち上がる。私はついでに、水道のそばに置いてある新しいペーパータオルをいくつか取ると、中尾くんのそばに寄ってしゃがんだ。
「とりあえず、ちゃんと拭きなよ。水、垂れてるから」
「えー、面倒」
「いや、ちゃんと拭きなって」
笑いながらペーパータオルを手渡すと、中尾くんが少し気まずげに濡れた手や腕を拭く。
「ここが片付いたら、それやってあげる」
「それって?」
とぼけた表情で首を傾げる中尾くんに、つい苦笑いが漏れる。
「ケガの手当て。どうせうまくできないでしょ」
「あー、ありがと」
にこっと無防備な表情で笑いかけられて、思いがけずドキッとした。
私ってば、なんで親友の彼氏にときめいちゃってるのよ……。心臓がドクドクと鳴るのが、汐里への裏切りのような気がして気まずい。
頭がこれ以上余計なことを考えないように、私は床に転がった備品をテキパキと片付けた。そんな私のことを、中尾くんが何故かじっと見てくる。
中尾くんのことなんてこれまで意識したこともなかったのに、見られていると思うと勝手に顔が火照ってしまう。
手当てしてあげるなんて、余計なことを言わなければよかった。でも、おとなしく待ってくれている中尾くんのことをほったらかしのままにしておくこともできない。
ささっと手早く終わらせよう。