「吉崎さんは? 体調不良?」
「あー、うん。ちょっと頭痛くて」
「風邪?」
「うーん、たぶん偏頭痛」
「そっか、お大事にね」
中尾くんは私の顔も見ずにそう言うと、ろくに手も拭かないままに戻ってきて、保健室の棚を勝手に漁り始めた。濡れた腕からは、だらしなくポタポタと水滴が垂れている。
「適当に消毒とー、あと絆創膏貼っときゃいっか」
独り言を言っている親友の彼氏の背中をぼんやりと眺めていると、「わっ!」と悲鳴が聞こえてきて、棚から保健室の備品がガラガラーッと一斉に落ちてきた。
「うわ、最悪……」
頭を掻きながら床にしゃがみ込んだ中尾くんが、消毒液や絆創膏の箱、包帯、脱脂綿など……、周囲に散らばった備品を掻き集めて救急箱の中に乱雑にぶち込んでいく。その姿を傍観しながら、私はちょっと笑ってしまった。
そういえば、汐里が中尾くんのことをときどきこんなふうに言っている。
「尚平は、何するのも適当で雑なの」って。
可愛い顔を歪めて愚痴る汐里の顔を思い出して口元を抑えていると、中尾くんがちらっとこちらに視線を向けてきた。