***

 ズキン、ズキンと波打つように襲ってくる痛みに額を押さえる。気圧のせいか、朝からずっと頭が痛い。授業を受けるどころではなくて保健室のベッドでしばらく眠っていたけれど、朝から続く痛みは未だに収まる気配がない。

 もう、帰っちゃおうかな。でも、帰るために起き上がるのもダルい。
 ため息を吐いたとき、保健室のドアがガラガラと乱暴に開いた。ベッドを仕切るカーテンの隙間から、体育着姿の男子生徒が入ってくるのが見える。

「失礼しまーす。あれ、先生いねーじゃん」

 なんとなく、声に聞き覚えがある。寝転んだまま手でカーテンを捲り上げると、左腕を押さえてきょろきょろしていた男子生徒と目が合った。

「やっぱり、中尾くんだ」
「あ、吉崎さん」

 私を指差して驚いたように瞬きしたのは、親友の汐里(しおり)の彼氏だった。

「ケガ?」
「あー、うん。体育でサッカーしてたとき、敵チームとぶつかってコケた」

 中尾くんが左腕の擦り傷を見せながら、ヘラッと笑う。軽傷のようだけど、砂だらけの腕に血が滲んでいて痛そうだ。

「傷口、ちゃんと洗ったほうがいいよ」
「あー、うん」

 中尾くんが、踵を踏んで履き潰した上履きの底をパタパタと鳴らしながら、窓際の水道に向かう。