そこでまた、みんなの「おおーっ!」という歓声と拍手が起こり、「がんばってー!」という声援も飛んできた。
 真樹はアイドルよろしく「ありがとー!」と声援に応え、続きを話した。

『彼氏は……いません! っていうか、できたことないです。でも、好きな人はいます。中学の頃から、たった一人だけ。……あ、これからここに上がるみんな! あたしは正直に話したけど、みんなは遠慮しないで「ノーコメント」って言ってくれていいからね!? 以上、麻木マキでしたー!』

 田渕くんにマイクを返し、大拍手の中ステージを下りた真樹は、張りつめていたものから解放されたように元いた場所にペタンと座り込んだ。

「――真樹、おつかれー! よくガンバったねぇ。はい! コレ飲みな」

「サンキュ、美雪。ふーーっ、変な汗かいちゃったよー」

 真樹は親油から赤いラベルの紅茶のペットボトルを受け取ると、両手で顔の前をパタパタ(あお)いだ。
 自動販売機の中でキンキンに冷えていたらしい紅茶はまだ十分冷たく、グビグビ飲むと真樹の汗もあっという間に引いていく。

「まあねー、真樹って元々あんなに喋るキャラじゃなかったもんね。ステージの上ではめっちゃムリしてたんだろうなってあたし思ったよ」

「うん、まあ。さすが親友。付き合い長いのはダテじゃないね」

 真樹は美雪の察しのよさに舌を巻いた。

 二人の友情は小学校入学時から始まっているけれど、元を辿(たど)れば親の代まで(さかのぼ)る。母親同士が幼なじみで中学の先輩・後輩(ちなみに、美雪の母親が一年先輩である)、家も近所だったのだ。

「そういや、ウチのお母さんが言ってたよ。『真樹ちゃん、近くまで来たらまた遊びにおいで』って。最近、あんまり来てくんないからさ、お母さん淋しがってるんだよ」

「うん……、そうだね。去年作家になってから、ずっと忙しかったしなぁ。また近いうちに遊びに行こっかな」

「うん、そうしてそうして! 何ならさ、今日この後、同窓会が終わってからでも!」

 美雪は「善は急げ」とばかりにまくし立てたけれど。真樹が眉をひそめた。

「それはちょっと……。告白した後、どう転ぶか分かんないし」

「あ……、そっか。だよねぇ」

 美雪はガックリと肩を落とす。
 もしも真樹の告白がうまくいって、岡原と付き合うことになったら、その後は彼と二人で行動することになるかもしれないのだ。