『そうですか。ムリを言ってすみませんが、どうかよろしくお願いします。新しいプロットができたらまた連絡下さい。――できるだけ、なるハヤで』

「なるハヤ……ね。了解です。じゃ、失礼します」

 終話ボタンを押した真樹は、ふーっとため息をついた。

「――なんか、めっちゃ疲れた」

 電話で話しただけなのに、このどうしようもない疲労感は何だろう? ずっと片岡のペースに振り回されっぱなしだった気がする。

「大変なことになっちゃったなぁ……」

 せっかく第一稿の入稿が終わったところなのに、まさかの内容変更でプロットからやり直し。しかも、最も苦手としている(というか、ほとんど不可能といってもいい)恋愛要素を入れろという。

 断ることもできたはずなのに、言葉(たく)みな片岡にホイホイ乗せられ、引き受けるハメになってしまった。真樹にとって一生の不覚である。

「『マンネリ化してる』なんて、そんなのあたしが一番よく分かってるよ……」

 分かっていても、変えようがなかった。いや、最初から諦めていたのかもしれない。
 自分には、恋愛ものは書けないんだ、と。

 でも、それじゃダメなのだ。最初から〝ムリだ〟と言い切ってしまったら、いつまで経っても前に進めない。現状を打破することなんてできっこないのだ。
 きっとそれは、恋愛にもいえることだ。ただウジウジ悩んでいるだけでは、何も変わらない。

「……つまり、あたしも変わんなきゃ、ってこと?」

 自問自答した真樹は、ハッとした。
 そうかもしれない。同窓会も、作品の路線変更も、彼女が変わるためのいい機会だと(とら)えればいいのではないだろうか――。

「――よしっ! まずは……」

 真樹はスマホの着信履歴を開く。帰宅してから三十分ほど経っていたけれど、決めていたとおり、岡原に連絡しようと思ったのだ。

 これは自分が変わるための、最初のステップだ。――彼女はそう思った。