彼がここまで自分にこだわっている理由が真樹には分からない。

 それならどうして、この五年間一度も連絡をくれなかったのだろう? ――と思ったところで、自分からも連絡を取ろうとしなかったので、彼のことを責める気にはなれないけれど……。

『当日、お前にどうしても伝えたいことがあっからさ。だから、絶対(ぜってー)来いよ! 俺も行くから! 話はそんだけ。じゃあな』

「えっ!? ちょっと待ってよ! あたし、まだ返事してな――」

 ツーツーツー ……

 真樹が最後まで言い終えないうちに電話が切れ、終話音だけが(むな)しく響いた。

「……岡原のヤツ、一方的なところも相変わらずなんだから」

 真樹はほんの少しだけ懐かしさを(にじ)ませ、苦笑いして(ひと)りごちる。
 言いたいことがあるなら、電話で言えばいいのに。

「っていうか、もうホントにどうしよう?」

 これは何が何でも、二十九日には休みを取らなければならなくなった。真樹は頭を抱える。
 万が一、当日バイトを休めなくて同窓会に出られなくなったら、岡原はガッガリするだろうか?

「はー……。明日出勤なのに、気が重い」

 だからといって、体調も悪くないのに欠勤することだけは、彼女のプライドが許さないのでできないし――。

 …… グ~~ッ。真樹の腹の虫が空腹を訴える。

「お腹すいた……。そういえば、お昼ゴハンまだだったなぁ」

 スマホで時刻を確かめると、もう一時半を過ぎていた。どうせカレーを作るのなら、昼食も兼ねて早めに作ってしまおう。

 真樹はどんよりと沈み込んだ気持ちを切り替えるため、キッチンで調理を始めた。

****

 ――翌日。どうにか気持ちの切り替えに成功した真樹は、〈ブックランドカワナベ〉に無事出勤していた。