それは本業の作家稼業の方ではなく、書店でのバイトの方の心配だった。

 言うまでもないけれど、書店も商店。つまりは客商売である。土・日・祝日には来店者も多くなる。当然、人手も多い方が店側としては助かるので、暗黙の了解として従業員もそういう日に休みを取ることを避けるのだ。

 今の時代は電子書籍の需要が増えてきているので、紙の本はなかなか売れないといわれているけれど。それでも紙の本の方が好きだという人はまだ多く、真樹のバイト先にもそういう人達がたくさん客として来店する。

 そこは大手のチェーン店ではなく個人経営の店舗なので、実は真樹目当てに来店してくれている常連のお客もいたりするのだ。
 そして、真樹がライトノベル作家の〈麻木マキ〉だと知っているファンもその中にいたりする。――それはさておき。

「……とりあえず、まだ日にちはあるし。明日出勤した時、店長に相談してみるか」

 事情を話せば休みをもらえるかもしれないし、もしかしたら有給扱いにしてもらえるかもしれない。

「……いや、いくら何でもそれは!」

 自分の甘すぎる考えに、つい(みずか)らツッコミを入れ、首をブンブンと振る真樹だった。

 ―― ♪ ♪ ♪ ……

「わわっ! 電話!?」

 不意に鳴り出した着信音に、真樹は飛び上がった。母からだろうかと思い、スマホの画面を確かめた彼女は目を疑う。

「えっ、岡原!? マジ?」

 この五年間、真樹からかけたことはもちろんなかったけれど、彼の方からかかってきたのも、実はこれが初めてだ。

「……も、もしもし?」

 緊張で震える指で通話ボタンをタップし、応答する第一声もかすかに震えた。

『真樹、久しぶり。岡原だけど』