――『俺、働きながら定時制に通うんだ』

 そう言っていたのは覚えているけれど、彼がその後どうしているのか真樹は知らない。

 連絡先は知っているけれど、真樹から連絡を取る勇気もなかった。
 彼は真樹のことなんか忘れているかもしれないのに、今更連絡したって迷惑がられるだけだ。――そう思うと、勇気が出なかったのだ。

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 ――真樹は回想から意識を戻し、再び同窓会の案内状を読んだ。

『皆さん、お元気ですか?
 僕達が渋谷(しぶや)区立第一中学校を卒業して、今年でちょうど五年が経ちました。
 この節目に、一度皆で母校に集まりませんか? 皆で思い出を語らいましょう。
 四月十五日までに出席・欠席の返事を下さい。
                       四月 一日   田渕(たぶち) 剛史(たけし)

 その文面はパソコンで書かれてはいたものの、とても丁寧な文体である。中学時代の真面目な彼そのものが(あらわ)れているようだ。
 真樹もまだ駆け出しとはいえ、言葉を武器にしているプロの作家の端くれだ。読んでいて気持ちのいい文章というのはすぐ分かる。

「――そういえば田渕くん、なんでこの住所知ってたんだろ? お母さんから聞いたのかな?」

 真樹は首を傾げた。彼とは特別親しかったわけではないので、引越しの挨拶状も出した覚えはない。
 実家から転送されたのならまだ分かるけれど、このハガキはそうではないらしい。
 可能性として高いのは、母が中学校に娘の新居の住所を伝え、それが()った卒業生名簿が彼のところに送られたというところか。

「っていうか、二十九日!? 祝日じゃん!」

 真樹は日時に目を遣ると、(うめ)いた。

「休み取れるかな……」