『――真樹、そろそろ保育園に拓海のお迎えに行かないと。ね?』

 真樹は彼を追いかけようとしたけれど、母がそこへ迎えに来たので、追うのを(あきら)めた。

『うん……』

 真樹は母と一緒に、拓海が通っている保育園までの道をトボトボと歩いていた。
 何だかスッキリしなかった。何か重いものが胸につっかえているようで……。

『真樹、岡原くんにちゃんと告白できた?』

 真樹の冴えない表情を心配してか、母が(つと)めて明るく訊ねてきた。

『ううん、最後の最後で尻込みしちゃってできなかった。コレはもらったんだけどね』

 真樹はセーラー服の上に羽織っていたカーディガンのポケットから、岡原がくれた第二ボタンを取り出して、母に見せた。

『あら、ボタンじゃない! よかったわね』

『そうでもないんだよね……。アイツに言わせれば、このボタンはただのチョコのお返しみたいだし。別にあたしのことが好きでくれたワケじゃないみたいだもん』

 でも彼は、別れ際に真樹に何かを伝えようとしていた。――それがまさか告白!? なんて、真樹はうぬぼれたりしなかったけれど。

『えっ、じゃあ失恋したって決まったわけじゃないのね?』

『さあ? 分かんない。っていうか、何も終わってないよ。中途半端に幕引かれちゃった感じだもん』

 ――そう、まさに〝中途半端〟だった。自分の気持ちも伝えられず、彼の気持ちを知ることもないまま、真樹と岡原の中学生活は幕を閉じたのだった。

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 ――それから五年間、二人は別々の道を歩むことになった。

 真樹は都立高校に進学し、中学時代と同じく文芸部に入った。そして二十歳でライトノベル作家としてデビューし、現在に至る。
 
 一方、岡原にはサッカー強豪校からの推薦入学の話が来ていたけれど、彼はそれを断ったらしい。理由は家庭の事情なのだとか。