『俺、頭()りぃからさあ。お返しっつってもどんなモンがいいか分かんなくてさ。んで、今日卒業式だし、ボタンでもいいか、って』

『……はあ』

 これまた間の抜けた返事をしつつ、真樹は心の中で「いや、第二ボタンっていうのはそんなに軽いものじゃないんだけど」とツッコんでいた。

 そもそも、ホワイトデーのお返しだってそんな義務感でするものじゃないし、ましてや卒業式と同じ日だからボタンで済まそうなんて考え方は邪道でしかない。……と思ったのだけれど。

『何だよ、その不満そうな顔は? いらないなら返せよ』

『いらないとは言ってないじゃん! もらうよ! もらえばいいんでしょ!?』

 返せと言われれば、正直言って返したくない真樹なのだった。

『あ……、ありがと。――あのさ、岡原。あたし……』

『――ん? ナニ?』

 告白するのはあれが最後のチャンスだったのに、肝心な時に尻込みしてしまってなかなか伝えたい言葉が出てこないまま、真樹の視線は何度も宙をさまよった。

『だから何だよ?』

『…………ゴメン。やっぱいいや』

 ()かすような彼の声に、最後はとうとう引き下がってしまった。

『――お~い、将吾! これからカラオケ行こうぜー!』

『おー、今行く! ――あのさあ、真樹』

『ん?』

 つい数分前と、二人の立場が逆になった。岡原は何か言おうとして、――やめてしまった。

『いや、ゴメン。何でもねえよ。ダチが待ってっから俺行くわ。じゃあ、元気でな』

『うん。――えっ!? ちょっと待ってよ、岡原っ! 今何て言おうとしたの!?』