それから、私たちは授業の前後で小さな会話をするようになった。

 けれどそれは、講義が始まる前や、講義が終わって教室を出て行く支度をする間の、短い時間のこと。あくまで二、三分。よくて五分だ。

 四回目の講義後。

「陣内さんってサークルとか入ってるんですか?」
 私は尋ねた。

「一応、フットサルのサークルに所属はしてるよ。幽霊部員だけどね」
 私が年下だとわかって敬語のとれた陣内先輩は、少し恥ずかしそうに言った。

「片山さんは、サークルとかは?」

「私は軽音のサークルに入ってます。ギターを始めてみたんですけど、なかなか上達しなくて、ちゃんと演奏できるのはまだ先になりそうです」

 なんとなく、大学っぽいサークルに入ってみたかったという憧れがあった。テニスサークルが浮かんだけれど、残念ながら運動は苦手だったので、文化系のサークルを選んだ。

「そうなんだ。上手くなるといいね。じゃ、また来週」
「はい。また。お疲れ様です」

 六回目の講義前。

「あ、片山さん。髪切った?」
「はい。先週末に」

 長さ自体はそこまで変わっていないはずだったので、気づいてもらったことが嬉しいのと同時に、少し驚いた。

「似合ってるね」
 優しく微笑む陣内先輩。胸がきゅうっとなる。

「あ、ありがとうございます」

 そういった陣内先輩との小さな会話を、脳内で再生して幸福感を得る。

 これはもう、完全に恋だった。