三回目の講義で、私は陣内先輩と初めて会話らしい会話をした。

 いつもよりも少し早めに彼が隣に座った。講義が始まるまで、まだ少し時間がある。

 お互いに軽く頭を下げてから。
「おはようございます」
 私は勇気を出してあいさつをした。

「おはようございます」
 彼の方も笑顔であいさつを返してくれる。爽やかさがすごい。

 そしてなんと、彼の方から話しかけてきてくれた。
「あの、学部はどこなんですか?」

「私は、文学部です」
 緊張しながら答える。
「へぇ。珍しいですね。理系の科目なのに」

「まあ。そうですね。数学とか理科も結構好きなので。えっと、陣内さんは、学部は……」
 曖昧に答えつつ、同じような質問をしてみる。

「あれ、どうして僕の名前を?」
 ……やってしまった。熱くなっていた顔が、さらに熱を帯びる。

「あっ、いえ。ただ、その……この前ですね、出席カードが見えてしまいまして……それで」

 それで、覚えました。という部分を省略して、言い訳がましく白状する。これで私も立派なストーカー予備軍だ。

 しかし、陣内先輩は嬉しそうに笑った。
「へぇ。記憶力すごいですね。えっと……」

「あ、片山(かたやま)美羽(みはね)です」
 
 そうか。陣内先輩は私の名前を知らないのか。などと当たり前のことを思いつつ、私は名乗る。

「片山さん……ですね。僕は理工学部です。よろしくお願いします」
「いえ。こちらこそ」

 理工学部なんですか。とても似合ってますね。イメージ通りです。という台詞は、そっと飲み下した。