いったん落ち着こうと思い、周囲を観察する。
環境科学ということもあり、ほとんどが理系の学生らしい。八割が男子だ。
理系の学生は直角を測るためにチェックのシャツを着ている、というようなジョークを聞いたことがあった。実際に多くの人がチェックシャツを着ている光景を見ると、もしかして本当なのかもしれないと思えてくる。そんなわけがないのだけれど。
ざっと見た感じでは、この講義に学科の知り合いは一人もいない。というのも当然だろう。私は文学部の哲学科だ。
卒業のためには一般教養で指定された単位数を取らなくてはならないが、数ある講義の中から自由に選択をすることができる。わざわざ難しそうな理系の科目を選ぶような学生なんて普通はいない。
理系科目が得意な人間が理系なら、理系科目が苦手な人間が文系なのである。
私は哲学に興味があって文学部に入ったものの、理系の科目も嫌いではなかった。
この環境科学の講義も、単純に興味があったから選択しただけだ。快適で持続可能な社会の構築を目指す、だなんて、なんだか格好いいじゃないか。
必修科目でもないし、もし無理でも別の講義で単位はカバーできるから問題はない。そんな軽い気持ちで受講を決めたはずだったのに……。
その選択が、こんな偶然を生むなんて、思ってもみなかった。
右隣に座る静電気の彼を視界の端で捉えつつ、教授の話に耳を傾ける。なかなか集中できない。彼は真剣な表情で前を見ているかと思えば、時折眠そうにあくびをする。
運命だなんて浮かれるほど、私は愚かではない。
けれど、彼と再会できたという嬉しさは、たしかに私の中にあった。