「今度の土曜日、何人かで集まってバーベキューするんだけど、よかったら片山(かたやま)さんも来ない?」

 私が陣内(じんない)先輩に誘われたのは、十回目の講義が終わったときだった。十二月に入り、すっかり寒くなっている。

「行きます!」
 私は即答していた。

 陣内先輩に恋人がいると知ってショックを受けてから三週間。先輩とは、なんとか普通に接することができている……はずだ。

「じゃあ、連絡先教えて」
 先輩がスマホを出して言った。

 先輩の彼女——小渕(こぶち)さんの存在を知らないときの私だったら、舞い上がっていただろう。

「はい」
 今でもかなり嬉しい。私はまだ、陣内先輩のことが好きだった。

「じゃあ、また場所とか連絡するね」
「はい。よろしくお願いします」

 笑顔で手を振る陣内先輩に、私は頭を下げる。

 バーベキューか……。学科でもサークルでも、そういったイベントはあまりなかった。もしかすると、私が誘われていないだけなのかもしれないが。

 つまり、バーベキューなどという、いかにも大学生っぽいイベントに出席するのは初めてで、私の胸には不安と期待が同居していた。

 けれど、大学外で陣内先輩と会えるのだと思うと、心が温かくなる。