好きになった人には、彼女がいた。
つまり私は、失恋したという状況下に置かれていると、一般的に考えることができる。
けれど、私の中で、私の恋は終わってはいなかった。
私はまだ、陣内先輩のことが好きで、陣内先輩に好きになってもらいたいと思っていた。
いつの間にか、陣内先輩のことを、こんなに好きになってしまっていた。
もし、もっと前に恋人がいると知っていたら、そこでブレーキを踏んでいたと思う。でも、それを知らずにアクセルを踏み続けた私は、もうブレーキなんて効かないくらいに、スピードを出して恋に落ちてしまっていたのだ。
陣内先輩には、素敵な恋人がいる。
先輩は小渕さんのことが好きで、小渕さんも先輩のことが好きなのだろう。
でも、私だって陣内先輩のことが好きだ。
例えば、小渕さんに隠れて、メッセージのやり取りをしてみたり、一緒に遊びに行ってみたりして……。
そのうち、先輩は私のことを好きになってくれて……。
そんなことを自分が考えるなんて、少し前だったら想像もできなかった。
けれど私の好きな先輩は、そういうことをしない人だ。嘘が苦手そうな、誠実そうなところも含めて、私は先輩のことが好きになったのだから。
それに、私なんかでは、どうあがいても小渕さんに勝てそうにない。
では、大人しく身を引くべきなのか。それとも、フラれることをわかったうえで気持ちを伝えるべきなのか。そんなこと、恋愛経験値の乏しい私には全然わからなかった。
ただ一つわかるのは、私が陣内先輩のことを、どうしようもなく好きだということだけだった。