「じゃあ、そろそろ行こうか」
 陣内先輩は小渕さんに向かって言った。

 二人はこれから昼食を食べに行くみたいだ。ちょっと高めのレストランでパスタを食べる二人も、コンビニでおにぎりを買って公園で食べる二人も、想像すればそれはとてもお似合いで。

 陣内先輩と小渕さんは、自然体な、素敵なカップルだった。

「あ、そうだ」と、小渕さんが私の方を振り返る。「片山さんは、お昼はまだだよね?」

「はい。まだです」
 私は答える。

「私たち、これからお昼ご飯食べに行くんだけど、よかったら一緒にどう? いいよね」

「うん。課題にも付き合ってもらったし、お礼におごるよ」
 陣内先輩もうなずく。

「いえ。私も、友達と一緒に食べる予定があるので……」

 お邪魔になりますし、なんて言ったら、全然邪魔じゃないよ、なんて気を遣わせてしまうことが予想できたので、私は嘘をついて断った。



 私は食堂で、一人で昼食をとっていた。

 悔しかった。

 陣内先輩に恋人がいたこともそうだし、その恋人である小渕さんにお昼ご飯に誘われたことも。

 小渕さんは、私が陣内先輩と二人でいたことに対して、何も感じていないみたいだった。

 普通は、彼氏が別の女の人と一緒にいたら、怒ったり、機嫌が悪くなったりするのではないか。

 陣内先輩は、私のことを異性としてなんとも思っていない。小渕さんはそういうふうに考えているのだろうし、きっと実際にそうなのだろう。

 別に小渕さんが嫌いなわけではない。むしろ、綺麗で優しくて、ふわふわした雰囲気だけど、しっかり芯は持っていそうなところが、とても素敵だと思う。

 ちょっと抜けているところのある陣内先輩のことを、ちゃんと支えてあげられるような人だと思う。

 ときには逆に、甘えたりもするのだろうか。その様子も、簡単に想像できてしまう。ああ、本当にお似合いの二人だ。

 劣等感に押しつぶされそうになる。