猫を連想させるような、ぱっちりとした二重の瞳。すっと通った鼻梁。白くて綺麗な肌。
紺のブラウスに、黄色のカーディガンを羽織っている。花柄のスカートからすらりと伸びる足は、細くて羨ましい。
決して派手ではないけれど、凛としたタイプの美しさがあって、ファッション誌から抜け出してきました、という感じの人だった。
そして、陣内先輩のことを、親し気にファーストネームで呼ぶその女性は、きっと恋人なのだろう。
私は直感的にそれがわかってしまった。そして同時に、完膚なきまでに敗けた、とも思った。
「紹介するよ。彼女のさくら」
陣内先輩は、はにかみながら恋人を紹介した。
「小渕さくらです。夜空がお世話になってるみたいで、ごめんね」
小渕さんはとても自然体で、余裕のある口調で、大人っぽい表情で言う。彼氏が他の女と二人きりで課題レポートに興じているにもかかわらず。
ああ、もう少し私が綺麗だったりお洒落だったりしたら、小渕さんはもっと焦るのだろうか。そんなことを考えてしまう。
「あ、いえ……。私の方こそお世話になってるといいますか……」
一方の私は、動揺していてうまく喋れない。
陣内先輩の方をちらりと見る。彼の視線は小渕さんに向けられていて、その視線だけで、彼女のことを大事に思っているのだろうということがわかってしまった。
どうして、気を持たせるようなことをしたのだろう。舞い上がっていた私がバカみたいじゃないか。
けれどよく考えれば、陣内さんは同じ講義をとっている私に、課題を一緒にしようと持ち掛けただけだ。
これがもし、二人で映画でも観に行かない? とかなら、それはなんだかデートっぽいけれど、映画じゃなくてお勉強なのだ。
たぶん、陣内先輩はただ単に、普通の人よりもちょっと距離感が近いというだけで。
私が感じているような、異性として気になる気持ちなんて、少しも持ち合わせていなかったのだろう。