だいたい半分の、七回目の講義。シラバスにも記載してある通り、課題が出された。

 文字数が三千字程度とかなり多いうえに、提出期限が来週というのもなかなかきつい。他の講義で課題が出ていないことが、せめてもの救いだった。

片山(かたやま)さん、この後って、暇?」
 講義が終わると、陣内(じんない)先輩が話しかけてきた。予定を聞かれるという新しいパターン。私はちょっとびっくりする。

「はっ、はい。昼休みは特に予定もありませんし、三限も空きコマです」

 どういう意図の質問なのだろう。淡い期待を胸に抱き、私は答える。三限のことまで言う必要はなかったかもしれない。

「よかったら、一緒に課題やらない?」
「ぜひ!」

 願ってもない誘いだった。

 私たちは図書室に移動した。

 大学の図書室は、高校までの図書室とは全然違い、専門書が大量に並んでいる。自分の専門外の棚に並ぶ背表紙を見ても、何がなんだかさっぱりわからない。一周回って楽しささえ感じるほどだ。

 椅子と机もたくさん設置されていて、勉強などができる学習スペースになっている。

 学生たちは、本のページをめくりながら課題と格闘していたり、パソコンのキーボードを一心不乱に叩いていたり、気持ちよさそうに寝ていたりする。

 私と陣内先輩も参考文献になりそうな本を持ち出して、学習スペースに座る。

「じゃあ、始めよっか」

 陣内先輩が、声のボリュームを二段階くらい落として言う。ささやくような声も素敵だ。なんだかドキドキしてしまう。

「はい」
 私たちはノートパソコンを机に広げる。

 理系である先輩はいつも持ち歩いているのだろうが、私がパソコンを持ってきていたのはまったくの偶然だ。空きコマに動画サイトでも見ていようと思っていたのだが、思わぬ形で幸運へとつながった。