「……あのさ、お腹の調子がずっと悪いの?』
心護にためらいがちにそう訊かれて若干間を置いて「うん」と頷く。
「悪いよ。一昨年……中三の秋頃から今までずっと」
「それは……、辛いね」
心護は私より辛そうな表情で相槌を打った。私はこくりと頷いて説明を再開した。
「『IBS』はある四つの型に分けられる。便秘型、下痢型、混合型、そして分類不能型。でも私は……、その他のガス型で……」
私の言葉がピタリと止まったのを怪訝に思ったのだろう、心護は私の顔を心配そうに窺ってきた。
「ガス型って?」
やがて優しめのトーンで続きを促す。私は言おうか言うまいか迷って何度か口をパクパクと開閉した後に、言おうと決断した。
「ガス型はお腹の中にガスが溜まってお腹が張って痛くなったり…………、ガス漏れの症状に苦しんだり……。『IBS』の中で最も治りにくい型と言われてて。……ガス漏れっていうのは…………、無意識の内にガスが漏れてしまう症状の事でね……」
滴り落ちる雨の雫のようにポツポツと喋ったけど、途中で辛くなって唇をきつく結んで説明を中断した。心護は続きを促さずに私の説明をメモした携帯の画面を考え込むような表情でじっと見詰めている。
沈黙に耐えきれず、「私が」と小さく口を開けて声を発した。窓の外から聞こえる控えめな秋風の音でかき消されてしまうくらい弱っちい声を。
「……臭いのはこのガス漏れが原因なの。ごめん。こんな汚い話……、聞きたくないよね」
私は俯いてすぐに自分の腕に右手の親指の爪を立てた。一個……二個……三個……。左腕の手首に紅色の三日月が刻まれていく。こうやって自傷して堪えないとどす黒い感情が溢れ出してしまいそうなんだ。
心護は絶対気づいていたのに自傷行為を止めずに「汚い話じゃないよ」と断言した。
「でも。鈴凰ちゃん、今、凄く辛そうな顔してる。もうこの話はやめようか?」
心護が出した提案に私は無言で頷いた。このまま『IBS』の話を続けるのは辛い。
数秒後に心護は私にふわりと微笑みかけた。
「鈴凰ちゃんが話してくれたことは全部メモった。帰ったら必ず調べるよ。話しづらいことを話してくれて本当にありがとう」
「ううん。こちらこそ、真剣に聞いてくれてありがとう」
私は上目遣いで心護を見上げた。心護の身長は175㎝で154㎝の私を見下ろしているのに威圧感がない。柴田くんが私に向けた軽蔑の眼差しとは全然違って、一目見ただけで優しい人だと分かる灯火のように温かい眼差しで私を見詰め返している。
「もう、心護は……」
「ん?」
「私のこと、嫌いになったよね?」
「……え?」
心護にためらいがちにそう訊かれて若干間を置いて「うん」と頷く。
「悪いよ。一昨年……中三の秋頃から今までずっと」
「それは……、辛いね」
心護は私より辛そうな表情で相槌を打った。私はこくりと頷いて説明を再開した。
「『IBS』はある四つの型に分けられる。便秘型、下痢型、混合型、そして分類不能型。でも私は……、その他のガス型で……」
私の言葉がピタリと止まったのを怪訝に思ったのだろう、心護は私の顔を心配そうに窺ってきた。
「ガス型って?」
やがて優しめのトーンで続きを促す。私は言おうか言うまいか迷って何度か口をパクパクと開閉した後に、言おうと決断した。
「ガス型はお腹の中にガスが溜まってお腹が張って痛くなったり…………、ガス漏れの症状に苦しんだり……。『IBS』の中で最も治りにくい型と言われてて。……ガス漏れっていうのは…………、無意識の内にガスが漏れてしまう症状の事でね……」
滴り落ちる雨の雫のようにポツポツと喋ったけど、途中で辛くなって唇をきつく結んで説明を中断した。心護は続きを促さずに私の説明をメモした携帯の画面を考え込むような表情でじっと見詰めている。
沈黙に耐えきれず、「私が」と小さく口を開けて声を発した。窓の外から聞こえる控えめな秋風の音でかき消されてしまうくらい弱っちい声を。
「……臭いのはこのガス漏れが原因なの。ごめん。こんな汚い話……、聞きたくないよね」
私は俯いてすぐに自分の腕に右手の親指の爪を立てた。一個……二個……三個……。左腕の手首に紅色の三日月が刻まれていく。こうやって自傷して堪えないとどす黒い感情が溢れ出してしまいそうなんだ。
心護は絶対気づいていたのに自傷行為を止めずに「汚い話じゃないよ」と断言した。
「でも。鈴凰ちゃん、今、凄く辛そうな顔してる。もうこの話はやめようか?」
心護が出した提案に私は無言で頷いた。このまま『IBS』の話を続けるのは辛い。
数秒後に心護は私にふわりと微笑みかけた。
「鈴凰ちゃんが話してくれたことは全部メモった。帰ったら必ず調べるよ。話しづらいことを話してくれて本当にありがとう」
「ううん。こちらこそ、真剣に聞いてくれてありがとう」
私は上目遣いで心護を見上げた。心護の身長は175㎝で154㎝の私を見下ろしているのに威圧感がない。柴田くんが私に向けた軽蔑の眼差しとは全然違って、一目見ただけで優しい人だと分かる灯火のように温かい眼差しで私を見詰め返している。
「もう、心護は……」
「ん?」
「私のこと、嫌いになったよね?」
「……え?」