「……ありがとう」
 私は心護に感謝しながら無理矢理口角を上げてにこりと微笑んだ。心護はハッと気づいたように目尻が優しげに下がった大きな瞳をさらに大きくして、やがて申し訳なさそうな顔で「ごめん」と謝る。
「あのさ……。もしかして俺、余計なこと言っちゃった?」
 ううん、と私はかぶりを振る。
「心護は何も悪くないよ。……後、柴田くんも悪くない。全部私が悪い。……私が(くさ)いのが悪いから」
「えっ!? ……(くさ)いって? 鈴凰ちゃんが?」
 心護が信じられないといった面持ちで見てきたから咄嗟に目を伏せて逃げた。そんな顔で見られると心が痛い。
「私が(くさ)いのは紛れもない事実だよ。でも体臭とかじゃなくて……、ある病気が原因なの」
 私は蚊の鳴くような声で伝えた。
「……ある病気って?」
 心配そうに眉をひそめながら心護が訊き返す。
「正直話したくないけど……、ただの(くさ)い奴って思われるのはもっと嫌だからちゃんと話すね」
「ありがとう」
 心護は温かな眼差しをこちらに向ける。凍りついた私の心が徐々に溶けていく気がした。
「話してくれるんだね。正直混乱中だからとても助かるよ。でも鈴凰ちゃんが話せる範囲で大丈夫だよ。(つら)くなったらすぐに話すのをやめていいから」
 心護にそう言われた瞬間、思わずくしゃっと顔を歪めた。やばい。これは心護の言葉じゃなくて自分の言葉だと充分理解しているはずなのに泣きそう。多分、もう、限界なんだ。
 押し寄せてきた涙の波に耐えながら静かに深呼吸して覚悟を決めた。
「私ね、()(びん)(せい)(ちょう)症候群(しょうこうぐん)っていう病気を患ってるんだ」