柴田くんから言われた言葉を思い出して下唇を強く噛み締める。ハハッ。笑える。
 多分、IBSにならなかったとしても、私は気持ち悪い人間だっただろうから、私と柴田くんが仲のいい友達になることはなかった。そう結論づけないとこの先、生きていけそうにない。IBSのせいで素敵な恋愛ができないなんて思いたくない。
 リュックサックに顔を埋める。みんなは私がこんな行動を取っても、眠いんだろうなって大して気にも留めていないだろう。そもそも、『あっ、鈴凰ちゃんいたんだ?』と言われるほど影が薄い私が何をしても誰も気づかない。
 さよなら五番目の恋。さよなら高校生活。さよなら柴田くん。私ね、高校を辞めるよ。さよなら。この先、もう会うことはないと思う。元気でね。……好きだったよ。
 真っ暗リュックのチャックを開けて水色の筆箱を取り出す。
 私が筆箱につけているキーホルダーは、柴田くんが筆箱につけているキーホルダーとは違う。別のアニメのキーホルダーだ。でも、柴田くんがつけているキーホルダーのキャラクターの名前は知っていたし、そのキャラクターが登場するアニメも好きで毎週欠かさず見ていた。
 だから、何もなければ柴田くんに話しかけたかった。「そのアニメ好きなの? 私も好きだよ」って……。
 柴田くんは隣の席だった五月の頃にはよく話しかけてくれた。何を話したのかは思い出せないけど、とても楽しかったこととそれで好きになったことだけはよく覚えている。楽しかった思い出も、昨日の放課後と今朝の出来事の記憶であっという間に黒く塗り潰されてしまった。
 多分、十七歳で私は高校を中退して、多分、貴方は無事に卒業する。柴田くんが()(いろ)ちゃんとイチャイチャしたり、友達と笑い合ったりしながら残りの高校生活をenjoyするだろうことを思うと、それこそ血の涙をボタボタと流したくなるくらい悔しい。だけど……仕方がない。
 髪型が特徴的な男性キャラのキーホルダーを指で弄んでいたら、唐突にかりんとうが食べたくなった。こげ茶色で便にそっくりだから『うんこの(にお)い』と揶揄されたことがある私にはお似合いのお菓子だろうし、甘くて美味しいかりんとうは好きだ。糖分を欲しているのかもしれない。私の人生には糖分が足りない。
 ああ──口の中が苦くて苦くて堪らない。