心護は呟くと少しの間黙り込んだけど、穏やかな笑顔を浮かべてすぐに喋り始めた。
「俺の言葉が信じられなくても信じなくても構わないよ。俺の声が鈴凰ちゃんの耳に届くうちにちゃんと伝えておけばよかったな、って後悔しないために伝えてるだけだから。……もういっかい言うね。俺は鈴凰ちゃんの味方だ」
 心護はそう伝えた後、私の握り拳を再び両手で優しく包み込んだ。私はもう、心護の手を引き剥がさずに幼い子供のようにわんわん泣き始めた。


「──ねぇ鈴凰」
「……なに?」
 まだ泣き止まないうちに突然話しかけられて反射的に見上げた私は思わずハッと息を呑む。 
 心護の美しい顔が見る見るうちに醜く歪んでいく。マッシュショートヘアの髪が少し伸びてショートカットヘアになって明るい茶髪から黒髪に、そして最終的に女子高校生に変身した。 
 あっ、こいつはもう一人の私だ。そうだ。そういえば呼び捨てで呼ばれた。心護は私を呼び捨てじゃなくてちゃん付けで呼ぶ。そういう”キャラ設定”だ。
「何の用?」
 私が睨みつけるともう一人の私は「何の用じゃないでしょ」と呆れ顔で腕を組んだ。
「妄想タイムはここでおしまいにしてそろそろ現実を受け入れなよ」
 私は我慢できずにチッと舌打ちをする。
「うるさいなぁ、分かってるよ!」
「白樺心護は現実世界には存在しない。お前を理解してくれる人も、お前の病気を理解してくれる人も──」
「その先は言うなッ!!」
「存在しない」