2年前までは、「他に行けそうな高校なかったから」とか、「制服が可愛いから」という動機で進学してきたこの二人には愕然とさせられたものの、園芸科に来たからといって、必ずしもその道に進む人ばかりではないということを私はこの3年間の中で理解し、その事実を受け入れられるようになっていた。家業を継ぐため、と入学した男子ですら、この3年間でIT関係の仕事に就きたいからと親の反対を押し切って、県外の工業大学に進学することを決めたり(園芸科から受験できる大学は限定的で、かなり苦労したみたいだけど)。人生の転機は、ある日突然訪れるものなのだと思い知った。高校入試を控えた中学3年当時は、今選んだ道が将来を決め、一度選んだ道は変えずに強い意志を持って進んでいくのが当たり前だと思っていた私にとって、違うと思ったら引き返す勇気、彼らの今の自分の気持ちに正直である姿は新鮮に映った。
 まだ少し肌寒さが残る中、ほんのり春の(かお)りを含んだ風が、()(はな)った自室の窓から流れてくる。
 午後3時。私は窓を閉めると、卒業式でもらった卒業アルバムを片手に、バッグを片手に玄関へと(いそ)ぐ。
「あら、若葉。出かけるの?」
 ママがリビングから顔を出す。
「うん、()()のとこ」
「そう。あまり遅くならないようにね」
「わかった。行ってきます」

    *

 昨日まで(かよ)っていた高校の校門前に差し掛かった。もうここに通うことはないけれど――少しだけ中に入ってみる。
 私服で訪れたのは、実はこれが初めて。そして、これがきっと最初で最後なのだろう。何となく、以前よりも確実に大人になったような気がして、誇らしいような、少し気恥(きは)ずかしいような……。たった一日過ぎただけなのに、今日はやけに校舎が小さく見えた。制服を脱いだだけで、こんなにも景色が違って見えるなんて。卒業という節目は、昨日と今日の境界があまりにも明確で、立ち返るのですら躊躇(ちゅうちょ)してしまうほどの圧倒感。これが追い風になってくれればいいのだけれど。まだ昨日の今日だし、少しくらいはまだ(なつ)かしんでいてもいいだろう、と高校生活の余韻に浸るように、グラウンドの土を一歩一歩踏みしめる。