その日は久しぶりのオフだった。
 贅沢を極めようと朝風呂に入り、新品のバスタオルを下ろして髪を拭き、腰に巻きつけただけで部屋の中へと歩く。水に濡れた犬が水滴を振り落とすように、ブルブルと頭を振って髪に残っていた水分を飛ばした。
 途中小さなキッチンへ寄って冷蔵庫から缶ビールを一本出す。プルトップを開け、歩き飲みしながら部屋へと戻って別に見るともなしにテレビのリモコンを押した。そんなに大きくない二十型の液晶画面に灯りが灯る。ワイドショーか何かがやっているのが見えた。べつに興味はないが、チャンネルを変えるほど不愉快でもなかったので、そのままカーペットの上に座り込む。
 朝といっても休日なので寝坊してたからもう昼近い。

────旭くん、今日の仕事は何時までやったかな?

 そんなことを考えながらもう一度、本当に見るともなしに液晶画面を眺めた。画面に映し出されているのはどうやらライブ映像らしく、昼日中に起きた立て篭もり事件の中継のようだ。
 相変わらずしょうもない事件ばかりやな……そう思いながらチャンネルを変えようとしたとき、その立てこもり現場となっている小さなアパートに目が留まった。

「なんや、このボロアパートまだあったんかいな、こないだの地震でよう崩れんかったな」
 思わず声に出してそう呟いた。
 立てこもり現場になっているそのボロアパートは、圭の出身地、というよりまっさら地元。学生時代よく出入りしていた場所だった。
 懐かしく思い出に浸りながら暫らく見ているとテレビでは事件現場のレポートが終りスタジオのアナウンサーが事件のあらましを伝えていた。画面はまだその懐かしいアパートを映したままだったので、圭もそれを見ていた。だがそこでアナウンサーが告げた立てこもり犯の名前を聞いた圭の胸に衝撃が奔る。

────立てこもっているのは風祭蒼太、二十六歳です。

 え?