またね、お姫様




「…レメック!!」




あたしも、いつの間にか、泣いていた。




「行かないで、レメック」




レメックが、どんどん離れていってしまう。



せっかく会えたのに、いなくなってしまう。




あたしは、泣き叫んだ。




「いや……!




レメック―――!!」






その時だった。




レメックが、



お父さんの手を振り切り、人々の列をかき分けて、



あたしのところへ駆け寄ってきた。




そして、あたしの手を強く握りしめ、




透き通った涙を流しながら言った。





「アネタ……また、会おう。



必ず、帰ってくるから。



戻ってくるから。



絶対に、君に会いに来るよ」





「レメック……」





レメックは、泣きながら、笑った。






「だから……笑って、お姫様」





次の瞬間、




レメックはナチスにつかまれ、




乱暴に列の中へと戻されてしまった。





そして、彼は行ってしまった。




いなくなってしまった。





「レメック……レメック……





レメック――!!」
  





冷たい地面に崩れ、あたしはずっと叫び続けた。





レメックとの時間は、わずかだった。



しっかりと別れを告げることも、出来なかった。





「大好き」と伝えることも、出来なかった。






こうして、レメックは、





他のユダヤ人たちと共に、消えてしまった。






町から、ユダヤ人は一人もいなくなった。




一気に何人もの人がいなくなったというのに、毎日は淡々と進んでいった。




ナチスに支配された日々は、続いていった。




あたしたちポーランド人は、ドイツのために働かされることになった。



子どもでも、強制労働から逃れることは出来なかった。



課せられた労働がきちんと出来なければ、



強制収容所へと送られることになっていた。




あたしは、



収容所へ行きたくないという一心で、



農作業の労働を必死にやった。



水や食べ物もろくに与えられない中での労働は地獄同然だったけれど、



みんなと同じように、



自分なりの力を尽くして頑張った。




あたしは、いつも、レメックのことを思い出すようにしていた。



レメックも、今、きっと頑張っているはずだ。



だから、あたしも頑張らないと……




また、会うために。




レメックが「また、会おう」と言ったことを、あたしは忘れていなかった。




彼がいなくなってから、



胸が張り裂けそうなほど辛い時もあったけれど、



また、会うために、



ただ、そのために、



倒れそうになっても、踏ん張った。