その日も、とても寒かった。



家の中で寒さをしのごうとしていたあたしは、



外の様子がいつもと違うことに気が付いた。



窓から見てみると、そこには―――




腕に腕章を付けた人々が、列を作っていた。




町のユダヤ人たちが、家を追い出され、どこかへ向かっていたのだ。




あたしの心臓は、止まりそうになった。




すぐに、家を飛び出し、外へ出た。




家を出て行くユダヤ人の周囲には、ナチスが何人もいた。



ナチスは、列になって進んでいく人々に対し、乱暴な言葉を浴びせた。




「急げ、薄汚いユダヤ人ども!」



「早くしろ、ユダヤの豚が!」




ナチスに罵られながら、進んでいくユダヤ人たち。




そんな彼らの姿を、周囲から、ポーランド人たちは黙って見ていた。




その光景を家の前で見るあたしを、両親が連れ戻そうとした。




あたしは、それを振り切った。




そして、人々の列を見つめ………




見つけた。





その中に、レメックとその家族を。





あたしは、声の限りに叫んだ。





「……レメック!」





すると、レメックは、こちらを振り返った。




その腕にはユダヤ人であることを示す腕章があり、



あたしを見た瞬間、



満面の笑顔が浮かんだ。





「……アネタ!」





彼が、あたしの名前を呼んだ。




次の瞬間、あたしは駆け出した。




レメックも、こちらに向かって、走ってきた。




そして、あたしたちは、冬の空の下で、思い切り抱き合った。




「レメック!」



「アネタ!」




二人とも、久しぶりに会えたことを分かち合うように、お互いの名前を呼び合った。





「レメック…!」





あたしは、やっと会えた彼を、力いっぱい抱きしめた。




「会いたかったよ、レメック」




レメックの体は、少し痩せたようだった。



けれど、その腕には、力があった。




あたしは、その腕に、力強く、包み込まれた。




「僕も会いたかった……」




レメックの声は、泣いているようだった。




見ると、その瞳は、震えていた。




「レメック…?」




目にたくさんの涙を溜めているレメックを、もう一度抱きしめようとした、



次の瞬間…




その背後から、レメックのお父さんがやって来た。




「レメック、さあ…



もう、アネタにお別れしなさい」




そう言うと、レメックの腕を引き、列の方へ引き戻そうとした。




レメックのお父さんは、泣いていた。




「…嫌だよ」




レメックの目からも、涙がこぼれた。




あたしは、それまで、彼が泣いたのを見たことはなかった。




涙を流すレメックは、お父さんに抵抗しながら、




あたしの手を握った。





「アネタ…」




「レメック」





あたしは、レメックの手を握り返した。





しかし、すぐに、二人の手は離れてしまった。





あたしも、後ろから父につかまれ、





無理やりレメックから引き離された。





列の方からは、ナチスの急き立てる声が聞こえていた。