───「今年は即戦力の右腕投手が居すぎた。ただちょっと運が悪かっただけさ。君レベルなら企業の社会人野球からスカウト来てるだろう。」
「……はい。」
「そこでまた注目されればいい。また二年後にきちんとプロになれる場は用意されている。」
それから随分話し込んだ。彼はミチさんと呼ばれているらしい。
彼とカウンター席というステージから少し離れた場所で、だけれどもただ前を向いてステージの奏者だけを眺めた。グラスを手のひらに抱えたまま。時に演奏された楽曲の感想も伝え合った。
ジャズのリズムに合わせてのんびり展開される話は言葉数は少ないけれど、どれも美しい音楽と共にすうっと胸に透き通った。
白い口ひげを揺らしながら優しい口調で語る度、ミチさんの異様に震える指が気になった。
彼はウッドベースをどのように演奏していたのだろうか。