俺は比較的酒は強いほうで、野球部の練習後に後輩を連れて居酒屋でこうして何度も励ましてきた立場だ。
リーグ戦で4勝1敗、防御率も悪くない。MVPにも選ばれたこともある。チームの優勝にも貢献してきたと思う。
───一昨日、俺に憧れていると語ってくれた後輩に、マイクの前で何と語れば良かったのだろう。
思わず呆れて笑ってしまったのだ。
『俺なんて、要らない、ということですよね。まだ、当分届かない夢なんだって改めて思い知らされました。ハハ、こんな立派な会場設営もして頂いたのに、いや、申し訳ないです。
無駄にして、ごめんなさい。』
いくら頭が真っ白になっていたとは言え、
各プロ球団の選択終了のアナウンスが終わった後の、誰もが息を潜める第一声としてこれは如何なるものか。
隣に居る監督、見守る後輩、前を陣取る記者の人、俺に期待してくれている人がざっと五十人以上はいる会場で、
いくら報道される可能性がなくなったとはいえ、
俺みたいな立場の人間が、言うべき言葉ではなかったはずだ。
誰もが黙り込んで、
静まり返ってしまったのだ。
再びグラスに口をつけようとしたとき、
突如その場は静かになった。
思わず一昨日のその沈黙を思い返して、ぶるっと寒気がした。
しかし、間もなくまばらな拍手が至る場所から聞こえてきた。
バーの小さなステージに奏者達が入場してきたのだ。
ざっと見たところ7人の綺麗な洋装をした大人達。
トロンボーンやフルートといった金管楽器を光らせて、グランドピアノやドラムセットのある場所へとそれぞれがスタンバイした。