「……妹さん上手いね。結構ピアノ歴長い? 」
「小学校に入学して始めたから、もう結構長い期間、こうやって晩ご飯まで練習してるね」



彼女に促されて座った食卓のテーブルに肘をついて、椅子に軽く腰かけてぼうっと光景を眺めていた。窓から吹き込む秋の夜風に晒されながら。

窮地に立たされた俺は現実逃避をしたかったのかもしれない。
過去の俺に、過去の人に、
問いかけたくて仕方がなかった。

どうしてこうなってしまったのだ?、と。






すると、その妹は突然演奏を辞めて、
長椅子からぴょんと飛び降りて、俺達の元に来て無邪気に尋ねたのだ。



「ねえね。野球の(りょう)ちん?」
「そう、(りょう)ちん」



「なんで昨日、名前呼ばれなかったの?
配信まで見て楽しみにしてたのに。学校の友達にも自慢したんだよ。
お姉ちゃんのカレシがプロ野球選手になるって。」



彼女は慌てて椅子から立ち上がり、妹の口を塞いだけど、もう遅かった。


「亮ちんって嘘つき。」



彼女はしゃがんで「嘘つきじゃないよ、スカウトの人の見る目がなかったんだよ」と妹の洋服の裾を持ち、なだめていた。
首を何度も振っていた。
俺のほうはしばらく見なかった。