俺には忘れられないピアノの音色があった。

「あぁこれ? 妹が弾いてるの。今ピアノのレッスンで習っててね。逢うの初めてだよね。」

もう付き合って何年も経つ彼女の家に久しぶりにお邪魔した。
すると彼女の、その小学生の妹が、リビングの壁側に置かれたピアノに向かって座っている。
慣れた手付きでソナチネの旋律を奏でていた。



音楽は人の記憶を刺激するという。

ピンと背筋を立てて鍵盤に向かうその幼くも懸命な姿を見て、俺は懐かしい人を連想した。

俺が野球を始めるきっかけをくれた人だった。小学生の頃に好きになった、同じクラスの気の強い女の子。
今では俺も22歳。どんな人になっているだろうか。


今付き合ってる彼女の家に来ておいて何を回想していると言われるかもしれない。
しかし、眼前にいるその妹が、君と背格好が同じ女の子が、
───全く同じソナチネのメロディーを鳴らしていたら?