震える背中に、温かい肌が添えられるのを感じた。
それはミチさんの手のひらのぬくもりだった。
ラッピングされた花束から漂う金木犀(きんもくせい)の香り。謙虚な甘さ、優しさ。
この香りを知る度、きっと思い出すだろう。俺の背中をこうして包んでくれた人がいることを。


「その想いが、君を導くでしょう。忘れちゃいけませんよ。この夜のこと。悔しい気持ちが何より人を強くするんです。」

上品なニット帽、カーディガン、白い髭。ミチさんみたいに、異境の地で俺を待っててくれる人がこうしている。
故郷にはもっとたくさんの人がいる。俺はまだ諦めるわけにはいかない。終わらせるわけにはいかないんだ。


「……俺、小瀧(こたき)みおさんみたいにいつか、堂々とサイン書ける人になりたいです。」

ただ思ったことは一つ。
帰ろう。そして蔑ろ(ないがしろ)にした人達に、もう一度待っててくれるよう頼もう。
俺は一人じゃない。