「こんばんは。小瀧(こたき)みおです。N県から来られたとマスターから伺いました。今宵ははるばる遠くから足を運んでくださりありがとうございます。」

「いえ……す、素敵な演奏でした。」

「JazzBar METORO常連客のミチさんとお話されてましたね。初見で話し込む人なんて久しぶりに観ました。ふふ。」


化粧を施した君の顔は、まっすぐ目を覗き込む癖から、小学生のときの幼い顔と案外簡単に紐付けることはできた。でもそれは俺は君の自己紹介を一方的に聞いてしまったからだ。
10年という月日の長さを想う。近くで見ると胸元がうっすら透けて見えるデザインの赤いドレスは、小学生の女の子ではなくて女性だということを意識させて、目のやり場に困った。でも俺だって身長が30㎝以上伸びたし、声も低くなった。全く気づかなくても仕方がないだろう。

溺愛(できあい)する君に(いじ)られたミチさんは、恥ずかしそうに口元を覆い、グラスと共に席を立ち去ってしまった。

「ふふ、いつも謙遜(けんそん)するけれど、凄い方なんですよ。」