ステージには綺麗な赤いドレスを着た女性が出てきて、その手にはトランペットを持っていた。
裾を翻してお辞儀をしたとき、バーの雰囲気がガラッと変わった。
その艶やかさに思わず目を剃らしたそのとき初めて、直政がいつの間にか叔父さんと遠く離れたソファに座って歓談していることに気づいた。
───”では、聞いてください。
カーペンターズの青春の輝き”
俺が雰囲気に呑まれている間に、女性はそうマイクに声を乗せた。そして甘いメロディーをトランペットに吹き込んで身体で奏で始めたのだ。
それが、あまりにも別格の実力で俺は二度見してしまった。
「内浜亮くん。あの子、僕の好きな子なんだ。いい根性してるよね。」
ミチさんは皺の深い目を細めた。白いひげの口元を和らげると、まるで少年のような顔で、嬉しそうに俺に語りかけた。
「彼女、ここの看板娘なんだよ。進学高校に通いながら年を誤魔化して地元のバーで雇われ奏者をしていたそうだ。その実力がたまたま客として来たミュージシャンに見いだされて、大きなジャズバーやライブハウスやしまいめにはレコーディングやコンサートを転々さ。今日は定期公演に来たわけ。音楽学部の大学ももう卒業予定なんだ。」
俺と同い年なんだ、なんて考えながらそのドラマチックな人生を、音色に乗せて聞いていた。
その音色はどこか温かく懐かしかった。
彼女の気の強さ。一人で奏者として乗り込んできた負けん気。
でも酸いも甘いも知っている優しさ。
表情やテンポを取る足の爪先に、全て滲みでているように感じた。
もう予感があったのかもしれない。