マジか。
 低すぎる気温。季節が外れまくりの雪。尋常じゃなく白い長め髪。これだけの情報が集まれば、なんとなく予想はついたが、まさか本当にそうだとは思わなかった。にしても、自分からここまで堂々と正体明かすか? 普通。
 疑問は山のようにあったが、別に害があるわけでもなさそうなので、俺は気を取り直してとりあえずお礼を口にする。

「雪女さん。この度は助けていただいて、ありがとうございました」

 なんか、変な感じがした。

「うん、どういたしまして。というか、あんまり驚かないんだね」

 心底つまらなそうに、雪女は口を尖らせた。

「まぁ、六月なのに雪降ってるし。髪とか、異様なくらい白いし……」

 雪のように白い、というより雪そのものの可能性もある髪を見ながら、俺は思っていたことを素直に述べた。
 すると彼女は、得心したようにポンッと手を叩く。

「あー、それもそっか!」

 はにかみながら、彼女は明るくそう言った。そしてそのまま、「納得、納得!」となにやら一人でぶつぶつと言っている。
 ここで俺は、すごく真っ当だと思われる疑問に行き着いた。

 雪女って……こんな感じだっけ?

 俺の頭の中にある雪女はとにかく冷酷非道で、出会った人をその息だか冷気だかで凍死させるイメージだった。
 しかし、目の前の自称雪女は、むしろその対極に位置する性格のように見えた。もちろんそれが演技である可能性も捨てきれないが、彼女の表情にはそんなずるそうな、人を陥れようとする様子が一切なかった。ありのままで、純真無垢(じゅんしんむく)、といった感じだった。

「あ、それとさ。見ての通り同じくらいの年なんだし、敬語なんてやめてよ」

 唐突に、彼女はそんなことを言った。

「え? あ、はい……じゃなくて、うん」

 イメージの雪女とのギャップに混乱していた俺は、つい返事が遅れた。その遅れを疑問に思ったのか、彼女は小首を傾げる。

「あれ? どうかした?」

「いやいやなんでもないよ! うん!」

 俺は慌てて取り繕った。ここで変に機嫌を損ねさせて凍死とか目もあてられない。
 彼女はまだ腑に落ちないといった顔をしていたが、やがて吹っ切ったように頷いた。

「うん、まあいいや。言葉遣いも直してくれたし」

 細かいことは気にしてても仕方ないもんね、と彼女は微笑んだ。

 やっぱり雪女っぽくないなー、と思った。他にも、雪女の見た目と実年齢って同じなのかとか、いろいろツッコミどころはあったがやめておいた。怒らせて生きたまま氷漬けにされても困る。

「それで、優しい雪女がなんで病院なんかにいるんだ?」

「……まるで雪女は優しくないみたいな言い方だね」

 ちょっと怒ったように彼女は俺を見据えた。
 怒らせないようにしようと一分前に決めたはずなのにな、と内心で苦笑した。どうやら早速怒らせてしまったらしい。
 俺は早々に弁解を諦めて、開き直ることにした。