私たちは、手をつなぎながら森の奥へと続く小道を歩いていた。キャンプ場へは、小道の途中からわきに逸れ、茂みをしばらく突っ切ると行ける。なるべく人と関わらないように、私が最初に覚えた隠し道だった。やっぱり、人がいるところはしっかり知っておかないといけないから。でもそれが今では人の役に立っているなんて、何だか不思議な感じだった。

「へぇー。こんな道があったんだ」

 私の横にいる男の子は、感心したように言った。

「うん、偶然見つけたの」

「すごいなぁ。僕、探検とか好きだけど方向音痴だから」

 それで迷ってたんだ、と彼は恥ずかしそうに言った。

「さっきもどっか行こうとしてたもんね」

 私はジト目をして彼を見る。

「あははは、ごめん」

 ごまかすように、彼は笑った。
 実はさっき、彼は珍しい虫を見つけたとかで急に走り出したのだ。今いるところは、道から外れた完全な森の中。こんなところで迷子になったら、さすがに見つけるのは難しい。そんなこともあって、私たちは手をつないでいた。

「でも、迷子だったのに、私のこと助けてくれたの?」

 迷子なのに他の人を助けるなんて、私にできるだろうか……なったことないからわからないけど。

「まぁ、困ってる人は助けてあげなさいって、お母さんに言われてるからね」

 彼は胸をそらしてそう答えた。

「ふふふ、そうなんだ」

 すごく、すごく優しい人だと思った。
 幸せな家族なんだろうな。少しだけ、羨ましい。
 私はそんなことを思いながら茂みをかき分けていった。そして、

「この先、もう少し行ったら、石でできた道があるから、そこを左に真っすぐ行くとキャンプ場だよ」

 お別れの場所に着いた。正直に言えば、あとちょっとだけでも一緒にお話していたかった。でも、そんなことは言えない。

「ここまで来れば、後は大丈夫だよね?」

 きっと、彼を困らせてしまうだろうから。

「今度は迷子にならないように、キャンプを楽しんでね!」

 ばいばい、と手を振って私は立ち去ろうとした。でも、

「あ、待って!」

 彼は、そう簡単に私を逃がしてはくれなかった。

「……なに?」

 これ以上一緒にいるともっとそばにいたくなりそうだから、早く離れたいのに。

「えっと、ありがとう」

 彼は、途端に真面目な顔になって言った。

「その、君はこれからどうするの?」

 彼の言葉に、なぜか胸がちくりとした。
 でも、それが何なのかわからない。

「んー……」

 少しだけ考える。でも、特に私にはすることがなかった。というより、私にするべきことなどあるのだろうか。
 そんな私の様子を察してのことか、彼は急に笑顔になって言った。

「じゃあさ、僕と一緒に来ない?」

 満面の笑みを浮かべて、彼は私の手を握っていた。
 ああ、眩しいな、と私は思った。彼はどこまでも無邪気に、純粋に、私のことを見てくれている。そんな人今まで知らなかったから、本当に嬉しい。一緒に、行きたい。


 でも私は、静かに首を横に振った。