「ところで、キャンプ場ってどっちだったっけ?」
男の子は苦笑いをしながら言った。さっきも聞いてきたけど、多分方向音痴なんだろうな、と思った。
「あっちだよ。付いてきて」
私も苦笑しつつ、先に歩き始めた。普通に笑いながら会話していることに、今更ながら私は驚いていた。私が彼の立場だったら、絶対に逃げている。
「ね、ねぇ、あの……私のこと、怖くないの?」
しばらく談笑しながら歩いたところで、たまらなくなって私は聞いた。内心はすごく怖かった。なんて言われるのか、どんな言葉が出てくるのか。聞きたくないけど、さっきもこうして笑って接してくれた彼がどう思っているかの方が、はるかに気になった。
彼は、しばらく考えるようにして首を傾げていた。
何を考えているのだろう。
何かいい言葉でも考えているのだろうか。
そんな気を遣ってくれなくてもいいのに……。
「あの」
また、たまらなくなって口を開いた。正直に言っていいよ、と言おうとした時、
「なんで、怖いの?」
彼が、心底不思議そうな顔でそう言った。
「え、なんで、って……」
私は言葉に詰まった。
なんで?
そんなこと、私が知りたい。
「だ、だって! 私、実は雪女なんだよ⁉ 今は夏だけど、雪山に出る妖怪なんだよ⁉」
わからなくて、誰かが言っていたことをそのまま叫んだ。
「うん、実はそうなんじゃないかなって思ってた」
髪とか目とか肌とか色が違うもんね! と少し興奮した口調で彼は言った。
「うそ! だったら、どうして逃げないの⁉ あなたは、私に殺されるかもしれないんだよ⁉」
本当はそんなことしないし、したくもない。だけど、なぜか私はそんな脅しのようなことを口にしていた。
ああ、これでまた逃げられちゃうかな。でも今回は、私のせいだな。そんなことを思っていると、彼はまた少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「だって、君はそんなことしないでしょ?」
「え?」
「ケガしてるリスを助けようとしてた女の子が、僕を殺すわけないじゃんか。それに――」
無邪気な笑顔を浮かべながら、彼は続けた。
「僕は、すごく綺麗だなって、思ったよ」
その時、私の中で何かが溢れ出した。
ああ、そうだったんだ。
だって、私は雪女だから。
私は髪の色や目の色、肌の色まで違うから。
私には、怖い力があるから。
この事実は、どれも変わらない。私は雪女で、白色の髪と肌、青い目、そして変な力を持っている。でも、それをどう思うかは人それぞれで、私はそれを「怖い」と思っていた。いや、「怖い」ものだと思い込んでしまっていた。でも、彼はそれを「怖い」とは思わなかった。彼はそれを、「綺麗」だと言ってくれた。
多分、多くの人は私を怖いと思うだろう。でも、少なくとも彼はそうじゃない。
私を受け入れてくれる人だって、いるんだ。ただそれだけのことが、私にはたまらなく嬉しかった。
もう少しだけ、人を信じてみたいな。
泣き始める私に彼は慌てながらも、優しく涙を拭いてくれた。