私は、最低だ。

 誰もいない、いるはずもない場所で、私はひとり呟いた。
 あたりには既に夜の帳が下りており、ひっそりと静まり返っている。虫も草木も眠るころとはよく言ったものだな、と思った。

 ふぅ、とひとつため息をつく。
 私は今、ひどく自己嫌悪に陥っていた。

「なんで、こんなことになっちゃったんだろ」

 気持ちと一緒に、思わず視線が落ちる。
 もちろん、この闇の中に見えるものはない。昼間だったら、少しは気分の晴れるいい景色が見えたんだろうな、と思った。しかしそれも、あくまで夏だったらの話だ。今の季節は余計に気分が落ち込みそうな予感がする。だから今は、暗闇に感謝だ。

 そう、夏だったら。
 夏の日差しがまだ照り付けていたら、私はまだ目を背けていられた。
 その輝くような眩しさから。
 この悲しくてつらい現実から……。

 私はもう一度、ため息をついた。
 そして、そっと目を閉じる。

 もしあの日、私が声をかけていなかったら……。

 もしあの日、彼の症状を抑えていなかったら……。

 もしあの夏、彼と出会っていなかったら……。

 そこまで考えて、私ははっと目を開けた。
 ううん、それは違う。
 というか、どれも違う。
 私は、どれにも後悔はしていない。
 自分が、私自身が決めたことだから。

 私は、斜め下に向けていた視線をそっと上げた。その先には、薄まることのない暗闇がどこまでも広がっている。でも、私には見えている。あの夏の日に駆けた花々の絨毯が、その絨毯のそばで笑いながら話した日々が、私には昨日のことのように、見える。


 そして、初めて彼と会った日のことも――。