淡くて白い結晶が、ひとつ、またひとつと空から舞い降りてくる。

「マジかよ。今って、六月……だよな?」

 誰に問うでもなく独り言ちる。全くもって意味がわからなかった。六月に雪が降るなんて、見たことも聞いたこともない。……まぁ、現在進行形で見ているんだけど。

 とりあえず、垣根の近くにあるベンチに腰を下ろす。気温のせいか、やけに冷たく感じた。
 俺はそのまま背もたれに体重を預けると、ぼんやりと雪を見つめ始めた。
 なぜか心の中が、澄んだ水面(みなも)みたいに落ち着いていた。
 こんな安心感は久しぶりだった。

「この雪も、俺も、似た者同士ってことか」

 空に向かって、俺はそっと吐き捨てた。

 異常。

 そう例えるのが適切なもの同士。
 同じような存在が、たとえ少しの間でも身近にいてくれる、というより降ってくれているのは、とても心強かった。

 でも、この雪もいつかは……。

 そう思った時だった。

「ぐうっっ⁉」

 高熱の鉄板か何かで焼かれているような熱さと痛みが、全身を駆け巡った。呼吸も一気に荒くなり、心臓が壊れそうな勢いで脈打ち始める。身体のあちこちから汗が吹き出し、後数瞬で死ぬんじゃないかと思うくらいの苦しさが、俺を襲った。

「はぁ……はぁ……」

 今までで一番ひどい発作だ。
 息も絶え絶えになりながら、手探りで病衣のポケットの中からなんとか注射器を取り出す。そして乱暴に数回降ってから、太ももに刺そうとキャップを外した時、

「あっ!」

 手の感覚が麻痺(まひ)していたせいで、キャップを抜いた時に注射器を落としてしまった。
 注射器はころころと転がり、ベンチの下に入って見えなくなる。

 やばい。

 本能が、うるさいくらいに警鐘を鳴らしていた。
 焼けるような痛みと熱さはますますひどくなり、意識が朦朧(もうろう)としてきた。

 ……このまま死ぬのも、いいかもな。

 他人事みたいに、心の中でそうつぶやいた。
 悲鳴をあげる身体とは裏腹に、頭の中はやけにクリアだった。
 そんな非日常的思考も白く塗りつぶされようとしていた寸前、

「……え?」

 ひんやりとした何かが、両頬に触れた。