休日でも最大の混み具合を見せるこの時間、それは屋内においても例外ではなかった。
 俺はどこぞのゆるキャライベントでごった返す小広場を通り過ぎ、くじ引きで並んでいる列の間をすり抜け、多くの人が順番待ちをしているエレベーターの待ち時間に待ちきれず、階段を必死に昇っていた。

「くっそ。なんでこんな時に限ってエスカレーターが点検中なんだよ」

 吐いてもどうしようもない悪態を口にしつつ、階段の踊り場で一息つく。入院生活中に体力を落とさないようリハビリをしていたといっても、並の高校生には程遠い体力の無さに嫌気がさした。

「にしても、夏生たちの方は大丈夫かな」

 協議の結果、範囲が狭く、エレベーターを使えば移動に身体の負担をかけにくい屋上は俺、その他の屋内は岡本と夏生という分担になった。まぁ実際は階段を使ってしまっているが、その辺は俺だけの秘密だ。それよりも、移動の際に思ったことだが、俺が想像していた以上に屋内のショッピングエリアは広く、とても二人だけで探しきれるとは思えなかった。

「俺も早く屋上を探して、二人に合流しないと」

 俺の脳裏には、岡本が久しぶりに病室に来て、佐原さんと付き合い始めたことを報告してきた日の彼の様子が、浮かんでいた。
 あの時の岡本はやたらとそわそわしていて、得意のビターな歌詞も甘々になっていた。キャンプの話になってからは、歯止めが利かなくなったように佐原さんのことを饒舌に話すし、そのキャンプの時には自慢げに佐原さんを紹介してきた。

 でもそれは全て、「彼女の前で」ではなく、「彼女のいないところで」だった。
 病室で歌詞を読んだ後、この歌詞は佐原さんには見せていない、というより恥ずかしくて見せられない、と言っていた。
 佐原さんの前では、岡本は饒舌どころか寡黙気味となり、キャンプの時の自慢げな紹介も、佐原さんが夏生や俺の両親と話している時に、俺にだけしてきた。

 やっぱり彼は、どこまでも不器用だった。勉強もスポーツもそれなりに器用にこなすくせに、こういう人付き合いだけは人一倍苦労していた。その理由も俺は知っていたから、余計にあの時の彼は変わって見えた。最近も調子良く絡んできていたし、変わって、変われて良かったと、思っていた。でもそれは、まだ幻想に過ぎなかったのだと、改めて思い知った。

「俺が、なんとかしないと……」

 息も整ってきたところで、俺は再び階段を昇り始めた。乳酸でうずく足を必死に動かし、階段を一段飛ばしで昇っていく。健康に気を遣っていそうな老夫婦とすれ違った際に怪訝そうな視線を向けられたが、そんなことを気にしている暇はない。

 ショッピングモールの屋上は九階。
 今昇り切った踊り場の壁にかかったプレートには、そのひとつ前の数字がでかでかと書かれていた。

「よし、もうすぐだ」

 何としても、佐原さんには伝えないといけない。
 そんなことを考えながら、屋上へと続く最後の踊り場を通り過ぎ、階段を昇ろうとした時、


「あ……」


「え……?」


 ずっと探していた彼女と、目が合った。