「また、やってしまった……」

 岡本は、中央時計台の付近にあるベンチで頭を抱えていた。

「その頭に血が上ったら畳みかける癖、どうにかしないとな」

 今俺たちは、最初に偶然を装って会う予定だった場所まで戻ってきていた。

 あの後、休憩広場の周りやメインストリート、ファッションストリートなど、佐原さんが走っていった方向を中心に夏生も含めて三人で探してみたが見つけられなかった。スマホの電源も切っているようで電話やメッセージには反応がなく、とりあえず夏生には午前中に回った店を探しに行ってもらっているが望みは薄い。

 あの時すぐに追いかけていれば、と思いつつも、ドラマや漫画みたいにそう上手くはできなかった。
 探し始めて既に一時間半。半ばお手上げ、といった状態だった。

「佳生ー!」

「お、どうだった?」

「ごめん。店員さんも見てないって」

「そっか」

 一縷の望みをかけた夏生の捜索もダメみたいだった。
 これであと探していないのは、屋内のショッピングエリアと屋上のイベントエリアくらいだった。

「もう、帰っちゃったのかな」

 夏生がつぶやいた。

「それは……」

 ない、とは言い切れない。というよりも、今のところ一番その可能性が高い。
 陽は傾き、空の色も薄くなり始めている。あと一、二時間もすれば夕方だろう。こんな長時間、少なからず落ち込んだ状態で居続けるとはあまり思えない。

「二人とも、ごめん」

 その時、ベンチで俯いていた岡本が急に立ち上がり、頭を下げた。

「せっかく二人が、仲直りするチャンスを作ってくれたのに……。俺の悪い癖で、台無しにしてしまって……ほんと、ごめん。もうこれ以上迷惑かけられないから、あとは俺一人でやるよ」

 そう言うと、岡本は顔を上げた。
 彼は、情けない顔をしていた。
 顔は青ざめているのに対し、目は少し充血している。髪は掻き上げたからかぼさぼさで、寒くもないのに手が震えていた。
 しかし、視線は真っすぐ、前を見つめていた。
 どうやら、不器用ながらも覚悟だけは決めたらしい。

「岡本……」

 それでも、バカなのには変わりなかったので、彼の頭をベシッとたたいた。

「いって! 何すんだよ!」

「うるせー。やっぱりバカだろ、お前」

 こいつは、どこまで不器用になれば気が済むんだろう、と思った。

「何かっこつけて遠慮してんだよ。友達だろ? それに、一人で探すより三人で探した方が効率的だ」

 あと、二人のことが普通に心配だし。

「佳生も大概だよ。ほんとは岡本くんたちのことがただただ心配なくせにー」

 心を見透かしたかのようなタイミングで、夏生はニヤニヤしながら俺の顔をのぞき込んできた。

「う、うるさいっ! 俺は……」

「はいはい。じゃあそう思ってるのは、私ってことにしておきますよー」

 夏生はクスクス笑いながらそう言うと、俺の前に出て岡本を見据えた。

「岡本くん。私は、二人にはいつまでも仲良しでいて欲しいの。だから、私にも協力させて?」

 今度は小ばかにした様子のない、純粋な言葉。わずか数秒のうちに、表情も悪戯っぽい笑みから柔和な笑顔へと変わっていた。

「二人とも……ありがとう」

 そう言うと、岡本は照れくさそうに頭を掻いた。
 午後三時を知らせるアナウンスが、そんな俺たちの頭上をしれっと通り過ぎていった。