「佳くん、なんで、ここにいるの……?」

 メインストリートから少し離れた休憩広場まで移動したところで、佐原さんは口を開いた。
 休憩広場と言えど休日の賑わいを見せており、そこそこうるさい。そんな中、俺と夏生は数メートル離れたところで岡本と佐原さんの様子を見守っている。にもかかわらず、決して大きくないその声は、なぜかきれいに俺の耳に入ってきた。

「いや、その……」

 三分程度の移動じゃ落ち着きは取り戻せなかったのか、岡本は言い淀んだ。視線も、下に敷き詰められた石畳やら、はしゃぎ走り回る子どもたちやらの間を行ったり来たりしている。

「佳くん、私の目を見て?」

 一歩、佐原さんが岡本に近づいた。
 でも、岡本は一歩後ずさる。

「た、たまたま偶然だって。俺も、霜谷と買い物に来ててさ……」

「夏生ちゃんと、霜谷くんに仲直りの協力をしてもらったんじゃないの?」

 バレてる。
 俺は隣にいる夏生を見る。と同時に、夏生も俺を見てきた。
 大丈夫かな?
 見守るしかないだろ。
 そんな会話を、目ですること二秒。

「べ、別にいいだろっ! 奈々、ここ最近俺をずっと避け続けてたじゃんか!」

 唐突に、岡本が声を荒らげた。叫んだ、というほどでもないので、俺たちと、その近くにいた何人かが、びっくりしたように二人を見た。

「え、え? わ、悪いなんて言ってないよ? ただ私は、どうしてそうしてくれたのかって聞きたくて……。そ、それに、あれは……」

 岡本がそんな反応をするとは思っていなかったのだろう。佐原さんの声は、委縮したようにしぼんでいく。

「避け続けてただろ! なんでそんなことするんだよ!」

「ご、ごめん。あれはね……」

「そんなんだから――」

 あ、これはまずい。

 そう思ったのも束の間、より大きくて高い声が、広場に響いた。

「もうっ! どうしてそういうことは声に出して言えるのに、大事なことは言ってくれないの⁉」

 佐原さんは岡本の目を見据えてそう叫ぶと、一目散に駆け出した。
 情けないことに、俺たちが動き出せたのは彼女が雑踏の中に紛れ、消えてしまってからだった。