「そういえば、いつもいた黒猫見なくなっちゃったよね?」
「そうなんだよ。今度近所の人に聞いてみようと思ってるんだけどさ」
「心配だね……」
同じ時間の電車に乗るため駅へ向かう私たちの会話は、もっぱら猫たちのこと。
私と律は、同じ大学の猫好きが集まる『猫サークル』で出会った。
野良猫や保護猫や、猫の実態に詳しい、なかなか濃い面子の集まりのサークルで、「ただ猫が好き」そんな引け目を感じていた私が、律を意識したのはサークルのビデオ鑑賞会でのことだった。
1つ年上の花崎 律は、とてもクールで物静か。表情をあまり崩さない感じが、どんな人なのかまったくわからなくて、近づきがたい印象を与えていた。