「ライル、お前は本当に使えねぇ奴だな! できることと言ったら、壊れた装備を直すくらい。雑用係としても落第点だぜ?」
「あ、あはは……」
「何笑ってんだ。……こっちはマジでキレてんだよ!」


 ボクが苦笑いを浮かべると、リーダーのダインはエールの入ったジョッキをテーブルに叩きつけた。ガシャン! という音が鳴って、酒場すべての視線はボクたちの方へ。しかし、相手はそんなこと気にもしないで声を荒らげた。
 

「いいか? 今までは、お情けでこの俺様の一流パーティーに置いてやってたんだ。お前が足を引っ張らなければ、このパーティーはもっと上に――Sランクになっていたはずなんだよ!」
「そ、それは……!」


 ダインの言葉にボクは言葉を詰まらせる。
 たしかに、彼の言う通りだった。

 ボクには戦闘技能というものがない。
 それなのに冒険者稼業に身を置いているのは、夢のための資金を貯めるため。せめてもの協力として、装備の修繕なんかはやっていた。
 自分としては、最高の仕事をしてきたつもりだ。

 だけど、ダインはボクの直した盾を指示してこう言う。


「こんなの、必要ねぇんだよ。素人の修繕なんざ、役に立たねぇ!」
「そんな……!?」


 そして彼は、力いっぱいに盾を床に投げつけた。
 まるで、ゴミを扱うかのように。ボクが寝る間を惜しんで直した盾、それを役立たずだと罵って捨てたのだった。
 それにはさすがに、ボクも腹が立つ。
 唇を噛みながら立ち上がると、こちらの感情を察知したダインは言った。


「おう、なんだその反抗的な目は。出て行きたいみたいだな?」


 赤ら顔に意地悪い笑みを浮かべた彼は、こう続ける。


「だったら、出て行けよ」


 待ってました、と言わんばかりに。




「ライル・ディスガイズ、お前は今日限りで追放だ!」――と。







「いやー、邪魔者がいなくなって清々したぜ」


 ライルを追放したダインは、他の仲間と笑い合いながら酒を飲む。
 すると、そんな彼に声をかけてくる人物があった。


「すまない。この盾はもう、用済みかな?」
「……あん?」


 それは、長い赤髪の剣士。
 ダインはそんな彼にどこか見覚えがあったが、酒に酔った頭では思い出す前に頭痛がやってきた。そのため、適当にあしらう。


「あぁ、もう必要ねぇよ。そんな駄作」
「そうか。なら、私が貰い受けよう」
「物好きな奴だな……?」


 すると赤髪の剣士は口元に笑みを浮かべ、去っていった。
 ダインは首を傾げたが、すぐに気持ちを切り替えて酒を喉に流し込む。


「…………凄いな。使い込まれているのに、傷一つない」


 対して剣士は、ライルの修繕した盾を見て驚きの声を上げた。
 そして――。


「もしかしたら――」


 酒場を出て、彼の姿を探す。
 だが、もうそこにライルの背中はなかった。
 剣士はもう一度、盾に視線を落としてこう呟く。



「あの青年は、とんでもない存在かもしれない」――と。