「ちなみに料理をしたことは?」
「ほぼねえな」
ですよね。昔はほとんど、女性が料理をしていたイメージがある。
私はお米のとぎ方から炊飯器の使い方、オーブンやガスコンロの使い方を彼に教えた。
「こりゃあたまげた。薪を割る必要すらねえのか」
昔はご飯を炊くのに、お釜の下の火に息を吹きかけ、火力を調節していたという。だから人によって炊きあがるご飯の味が変わったのだとか。
「便利な世の中になったもんだ」
おばさんに変に思われないよう、土方さんは終始小声でぶつぶつ呟いていた。
結局土方さんには簡単な作業だけをやってもらい、この日の朝食準備は終わった。息つく暇もなく、起きた寮生がどやどやと食堂に集まってきた。
「あいつらがこの寮に住んでいる寮生ってやつだな」
土方さんは今日まで隠れて暮らしていたので、寮生と顔を合わせるのはこれが初めてだ。
「はい、おはよう。好き嫌いせず食べてねー」
だらだらとトレーを持って列に並ぶ寮生の前に、三人で手分けして盛ったご飯やおかず、味噌汁を出す。寮生はそれぞれ取って自分のトレーに乗せ、適当な席に座って食べ始める。
「なんだこいつら、挨拶もできねえのか」