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ぼくは栃木市立蔵の街小学校の4年生だ。学校のすぐ西側には巴波川(うずまがわ)という小さな川が流れている。江戸時代、この川は日光までものを運ぶのに利用されていたらしい。江戸で船にたくさんの荷物を積んで、栃木で下すとそのさきは人や馬をつかって日光まで運んでいたという。3階の教室からは川も見えるけど、そんなにすごい川とは思えないくらい、流れはちょろちょろの穏やかな川だ。今日もアオサギは川岸に立って小魚を狙っている。彼は(彼女かもしれない、アオサギは雄雌同色だから)ぼーっとつっ立ってるけど、狩りの名手だ。身じろぎ一つせず、オレ(アタシ)は鳥の形をした置物だと魚に油断させておいて、ひょい、と首を水面に突っ込む。するとアオサギが長い首をあげたときには嘴には生きのいい魚がぴちぴちと跳ねている。


「……くん。友則くん?」


名前を呼ばれて我に返る。きょろきょろと見回すとクラスメートがぼくに注目していた。前をむくと担任の久美子先生と目が合った。


「名前をよばれたら返事でしょ」
「は、はい」