学校に女神はついては来ない。途中まで登校に付き添っていたりするのだが、なぜかあまり学校にいるのが好きではないようで、俺のそばにはいない。つまり、ようやく静かな一人の時間が学校という場所で訪れたということだ。女神は学校が嫌いなのだろうか? でも、あいつがいないほうが女神調査がはかどる。別にずっとそばにいなくてもいいなら、俺の部屋に入り浸るのはやめてほしい。地縛霊ってわけでもないみたいだしな。俺から離れることも可能なようだ。

 いつも通りの学校でいつも通りの時間が流れた。そのまま掃除が終了すると帰宅の途につく。いつもどおり鍵をあける。そして、いつもどおり誰もいない家に帰り、電気をつけた。

「ハッピーバースデー!! ラク」
 電気をつけると同時に女神がクラッカーを鳴らす。机の上には1ホールのケーキがろうそくと共に置かれていて、花束まで置いてあった。
「おまえ、これを準備していてついてこなかったのか?」
「まぁ、それもあるけど、学校ってそんなに好きじゃないし」

「これ、全部用意したのか?」
 すると猫耳をつけて、「にゃんにゃんるぅー」という。もちろん萌え招き猫のポーズだ。
「これ、バースデーセット一式がカチューシャから出てくるのよ。便利でしょ。でも、今日のアイテムはこれに消えたから、宿題は自分でやるように」

 結構簡単に準備はできるようだったが、俺はその気持ちがとてもうれしかった。生まれて初めて祝ってもらったのだから。そして、俺はケーキをたらふく食べた。

「女神は食べないのか?」
「私は食べなくても大丈夫な体なのよ」
「俺は女神に触れられないけど、おまえから物に触れることってできるのか?」

 すると女神がすっと俺の近くに来て、手を握った。
「おめでとう」

 それは一瞬だったが、女神側からは触れることができる事実が証明された。しかし、体温とか温かさは何もないようだった。やはり死人だろうかなんて疑ってしまう。

「女神の呪いとかではないよな? 触れられたら俺の体も気体になるとか」
「ここは胸キュンするところでしょ。あきれた性格だわ」

「ラクの髪はさらさらしていてきれいだね」

女神が突然褒め出す。そんなことを言われたのは生まれてはじめてだ。今日は何もかもがはじめてのことばかりだ。どちらかというと暗くて苦手とか、キモイとかそういった扱いしかされていなかったように思う。だから、きれいなんていう言葉はとてもくすぐったい単語だった。今日は俺の完敗だ。そんなことを思っていると――

「乾杯!!」

 ジュースを用意した女神が祝ってくれた。父親は深夜にしか帰宅しないし、自宅に帰らず職場に泊ることもしょっちゅうで、気兼ねすることもない。もっとも、女神の存在は俺にしか見えないので、誰かに見られたら一人でひとりごとを言う、危ない奴にしか見えないだろうが。やっぱり俺の完敗だ。

「俺に好かれたらめっちゃ金がもらえるとか、実は女神同士の罰ゲームだったりして?」
「疑り深いなぁ。そんなわけないし。性格曲がりすぎだし、被害妄想強すぎ」

じっと俺は女神の瞳を見つめた。嘘をついていないか目を見ればわかるというからな。

「そんなに穴が空くほどみないでよ! にらめっこは苦手なんだから」

そう言うと女神は視線を反らす。あ、今の俺の勝ちだな。俺はそんなどうでもいいことを考えてしまう。やはり俺は、素直に喜ぶとかそういった思考が苦手なようだ。まあ、俺はこいつの正体を暴いてみせる。何の根拠もないがな。