ところが中間テストに続き、球技大会でも彩乃の活躍は目覚ましかった。ネットの上から打ち下ろすスパイクは鋭角にコートのインを打ち抜き、ポイントを決める。中学時代に助っ人で試合に出ていた岬にも分かるほど、彩乃は名アタッカーだった。

病欠で欠員が出たバスケでもスリーポイントシュートを決めたりと、活躍が華々しい。岬も同じように得点に絡む活躍を見せていたが、同じ中学からの出身者が多い一年生の中で、彩乃は新しく現れたスターだった。岬の周りをにぎわしていた子たちが、一斉に彩乃を褒めたたえる。岬のファンクラブであった子までもが、彩乃の活躍に釘付けだ。岬は悔しさにハンカチを噛みちぎる勢いだった。

あっという間に彩乃を中心とする人の輪が出来上がった。テストをすれば彩乃が一位になるのを皆が当たり前として受け止め、体育の授業では一人抜きんでた運動神経で教師からも称賛される。異性からの告白も岬より多くなった。岬は学校という安住の地だった場所で、辛酸を舐めることになった。

ところがその彩乃が、岬と登下校を一緒にするものだから、一部の生徒に勘違いが起きた。

「岬くんは宮田さんと付き合ってるの?」

そんな言葉を岬を取り囲む女子から聞かされた時に、岬は心底驚いて、はあ!? と大声を上げた。

「だって、登下校一緒だし、お弁当の中身が宮田さんと岬くんで一緒のことが多いって言う噂だよ?」

弁当は宮田家のシェフが作って持たせてくれるものだから、入れ物と包みは違うけど、中身は一緒になってしまうだろう。しかし、登下校は兎も角、弁当の中身まで見られているとは思わなかった。

「違うよ、それは誤解だ。そもそも俺、彩乃さんの事、何とも思ってないし」

きっぱりと言うと、岬を取り囲んでいる女子たちから安堵の息が漏れる。

「そっかあ、良かった」

「そうよね。宮田さんが相手だと、勝ち目がないもんね」

岬を取り囲んだ女子からは安堵の言葉が漏れた。

(ああ、これだよ……! 俺を取り囲む人間は、こうじゃなくっちゃ……っ!!)

一人満足していた岬の耳に、今から帰ろうとしていたクラスメイトからの声が掛かる。

「あっ、今日も来てんじゃん。おーい、安藤。宮田さん来てるぞ」

呼ばれて気が付いた。もうそんな時間だったのか。

周りを囲んでた女の子たちに、またねと声を掛けて、彩乃のところへ行く。すると、心持ち気落ちしたような彩乃が其処に居た。

「どうかしましたか、彩乃さん」

俯いた顔を覗き込むようにして言うと、彩乃はびくっとして岬を見て、それから視線をうろうろと彷徨わせてから、なんでもないの、と元気なく言った。

(どうでもいいことで心配する振りなんかさせんなよ! お前なんか、本当だったら箸にも棒にも掛からないんだからな!!)

居丈高に内心思う。そんな岬の隣を、彩乃は悲しそうに目を伏せて歩いて行った。