「岬くんがあんなにみんなの人気者だなんて知らなかったわ」

学校からの帰り道。彩乃は少し頬を膨らませて不満を口にした。中学時代にも岬を慕う子たちがグループを組んでいたことは知っていたが、高校に入り、新たに岬の甘いルックスに惚れた女の子たちが、岬のファンクラブを作っていた。それがどうもお気に召さないらしい。中間テスト前の小テストでもどの教科でも常に満点を取っていて、それだけでクラスメイトからの信頼は厚かった。

(まあ、秀でている者はおのずと人を寄せ付けてしまうもんなんだよな)

ふ……、と心からの笑みがこぼれる。彩乃に服従して以来、こんなに爽快な気分になったことはなかった。金の力で岬を執事にした彩乃が、岬の魅力で勝ち取った地位を羨ましがる。なんて滑稽で愉快なんだろう。心がおおらかになるというものだ。

中間テストが終われば、球技大会も行われる。岬の活躍は文武の面で間違いなかった。



ところがその中間テストの結果発表の日。廊下に張り出された順位表の一番上に書かれていた名前は岬ではなかった。

「宮田彩乃さん……?」

「C組の子だよ。あの金持ち私立中学から入ってきた子」

「ああ、総代だった子」

「岬くんよりも上がいるなんて、信じられない」

順位表の前で呆然としていると、背中をポンと叩かれた。秀星だ。

「よお。彩乃さんに勝てなかった、岬くん」

「うっせーよ。お前なんか十位にも入ってねーじゃんか」

「良いんだよ、俺は。お前らと張り合うつもりはねーから」

じゃあ、俺と彩乃の勝負にも黙ってろ、と思ったけど、それは口に出来なかった。彩乃が順位表を見に来たのだ。

「彩乃さん! 一位おめでとうございます」

秀星が言うのににこやかに微笑んでる。そして順位表を見て、岬を振り向いた。

「岬くんも、二位おめでとう」

にこやかに。

ああーーーーーー!! 勉強で彩乃に上をいかれた、その悔しさと言ったら!!

「……っ、彩乃さんも……、一位、……おめでとうございます……」

悔しくて奥歯を噛みしめる。彩乃はにこりと微笑んで、ありがとうと礼を言った。

「主人ですもの。岬くんより悪い点数を取るわけにはいかなかったわ。おかげで真面目に勉強できました。ありがとう」

その余裕の微笑みが何とも憎らしい! ざわざわと順位表を見ていた周りの生徒たちが彩乃の存在に気付き始めて、声を掛け始めた。

「宮田さん……、だよね? 一位凄いね。入学式の時も答辞読んでたし、もしかして、凄く頭良いの?」

「今度勉強教えてよ」

岬をスルーして、口々に彩乃を褒める周りの生徒たち……。そんな状況を面白そうに秀星が見ていた。

「昔はお前の天下だったけど、今じゃ彩乃さんの天下だな。ざまあみろだぜ」

(お前が俺に勝ったわけじゃないけどな!)

そう言いたかったけど、此処でそれを言ったら、自動的に彩乃に負けたことを認めてしまうことになる。

(いや、まだ最初の中間一回だけじゃないか。テストは期末も二学期も三学期もあるし、これから球技大会だって体育祭だってある……。盛り返すチャンスはいくらでもある……っ!!)

その時には彩乃の上を行ってぎゃふんと言わせてやる。学校は岬の安住の地であり、彩乃に脅かされていい場所ではないのだ……。